

要旨:大きい心臓になった原因には、1)心臓に長期間持続的な負荷がかかっている場合(高血圧が代表)と、2)心臓の筋肉がかなりの損傷を受けた場合(心筋梗塞が代表)があります。
心不全という難解な病態を例え話で解説。 ◆266 心不全とはどんな病気? 例え話でやさしく説明
心配な時は医師に相談ください。
◆222 心臓病 症状から自己診断は、リスクあり危険
心臓が大きくなった、その原因は?
心臓が大きい時、それは病気で弱った心臓であると以前にお話ししました( ◆087 「大きい心臓」は、「弱った病気の心臓」?)。大胆に言えば多くはそう考えてもよろしいのですが、必ずしも正確な表現ではありません。心臓が大きくなっている場合には以下の様な原因が想定されます。
●1)心臓は正常だが、レントゲン写真で大きく見える。異常ではない。
●2)心臓に負荷が長時間かかったため、一時的に大きい。負荷を取れば小さく正常化する。
●3)心臓の筋肉が損傷を受けて、心臓が弱り大きくなった。しかし、
3-1:小さくできる可能性がある場合(原因を治療できる例や軽症~中程度)
3-2:小さくできる可能性は少ない場合(原因を治療できない例や重症例)
心臓サイズの大きい心拡大と、心臓の筋肉が厚くなった心肥大は同じではありません。サイズが大きいのは心拡大の方です( ◆157 心肥大や心拡大は、心臓病になった可能性)。
原因によって、治療は異なる
それぞれの場合で心臓を小さくする具体的な方法は異なります。このコラムを読んでいる方々は、1)、2)、3-1が大部分だと思います。3-2は心臓病としてはかなり重いと想定されます。
これからのお話は、国内のどこの心臓専門医療機関でもできる治療であり、特定の医療機関でなければできない先端的医療や研究段階の治療は対象外です。
1)心臓は全く正常
もともと心臓に病気はありませんので、詳しい検査の結果で問題なしと結論が出れば、心臓が大きく見えても心配する必要はありません。小さくする方法は考えなくてよろしいと思います。
2)負荷のため、一時的に大きい
この場合なら、心臓はまだまだ丈夫であり、決して心配する必要はありません。しかし心臓に何か負荷がかかっているのですからその負荷をとってやらないと、いずれ本格的な問題が表面化します。そんな心臓なら、心臓がまだ元気なうちにその問題の負荷を取り除いて心臓を楽にしないといけません。
A:高血圧が負荷の原因
心臓にかかっている負荷にはいろんな種類があります。最も可能性が高く数も多い「負荷」とは高血圧でしょう。高血圧は心臓にとって大きな負担になります。高血圧の程度が重くその期間も長いならいずれ心臓は必ず大きくなります。従って、高血圧が原因で心臓が大きくなっているなら、その高い血圧は相応の期間が経過した可能性が高く、高い血圧になってまだ数週間以内の可能性は少ないでしょう。大きくなってしまった心臓は既に或る程度のダメージを受けている想像できます。
そんな心臓であっても高い血圧を下げてやれば、まだ十分に小さいサイズに戻っていく可能性があります。しかしあまり長期間大きいままの状態が続けば、さすがに丈夫な心臓も損傷が強くなり過ぎて、血圧を下げても元の状態に戻らなくなってしまいます。まだ心臓のダメージがそれほど重くなく、血圧を下げれば元に戻る程度で治療を開始すべきないのです。
B:高血圧が軽ければ、小さく出来る
血圧が高くて当院を受診し、初めて高血圧の治療を開始した方で、治療前には大きな心臓であっても、治療開始して一年後には心臓が正常のサイズに小さくなっていることは良くあります。患者さんに治療前後の写真2枚を並べてお見せすると、誰の目にもその差が歴然ですから、皆さんは一様に驚かれ治療を開始してよかったと安堵されます。高血圧がそれほど重症でなければ、大きくなった心臓でもほとんどが治療で小さくなり元にサイズに戻ります。血圧の治療開始が手遅れにならないようにすることが大切です。手遅れな段階では、サイズが小さな正常には戻りません。
C:その他の原因
高血圧以外の心臓の負荷や、心臓が大きくなるその他の原因は、
●心房細動などの不整脈
●心臓弁の故障(心臓弁膜症)
●生まれつきの心臓の異常(心房中隔欠損症など)
●長期間の過酷な運動、スポーツ、労働
●長期間の強いストレス
●薬剤の副作用や毒性
●過剰な水分の摂取
●肥満、特に腹部脂肪の肥満
処方されたある種の治療の医薬品で心臓が大きくなります。心配ない場合が多いのですが重要な問題で主治医の説明を聞いて下さい。長期間の過酷な運動や労働は心臓に強い負担となります。病的な問題となるか否かは個人差があります。心臓弁膜症と先天性心疾患は手術すればある程度に小さくなるでしょう。
心房細動は長い年月をかけゆっくりと心臓が大きくなっていきますから、心不全とならないよう治療を受けて下さい。
水分摂取量の多さは弱った心臓なら大問題ですが、普通の健康な心臓ならあまり問題となりません。腹部脂肪の肥満も正常の心臓であれば大きくは見えても病的に心配するほどの負荷にはなりません。
それぞれの心臓の病気の治療法(負荷の取り除き方など)は原因によって全く違います。
3)筋肉のダメージ
このケースは外から加わった負荷ではなく、心臓の筋肉そのものに病的な異常があります。心臓の筋肉自体がダメージ(損傷)を受けて心臓が大きく膨らんでしまった場合です。その代表は「心筋梗塞」です。一方、数は少ないですが風邪などがきっかけでなる「ウイルス性心筋炎から心筋症へ」もこのタイプの病気です。原因不明の非常に珍しい心臓病で数は極端に少ないですが「拡張型心筋症や肥大型心筋症」などもこのタイプです。
A:心筋梗塞
心筋梗塞では、発症後の数時間以内に心臓の一部の筋肉が完全にダメになってしまいます。突然発症してから数時間で一気に心臓が大きくなってしまう恐ろしい病気と言えるでしょう。長い時間経過とともにゆっくり心臓の筋肉が損傷されて大きくなるのではありません。心筋梗塞になって直ちに心臓が大きくなってしまうのです。
この大きくなってしまった心臓を小さくするのはかなりの時間がかかります。自然にゆっくりと小さくなることもありますが、治療で短時間で劇的に小さくするのはなかなか困難です。一旦大きくなってしまった心筋梗塞では適切な治療で時間をかけながらゆっくりと小さくしてやることになります。期待するほど簡単に早くは小さくなりません。具体的な治療方法は主治医とよく相談して下さい。
しかし、もし心筋梗塞発症直後の数時間以内なら、緊急の心臓カテーテル治療や薬の投与で筋肉の損傷は最小限に抑えられ心臓はそれほど大きくならないで済みます。この幸運は、胸痛が起こった発症後の数時間以内に緊急治療が出来るか否かが分かれ目になります。その時にそのような治療が出来る病院に行けるかどうかです。人口10万人程度以上の街であれば、そんな病院が一つはあるでしょう。
B:ウイルス性心筋症
この病気では、心筋梗塞ほどではありませんが同じく比較的短時間で心臓が損傷を受けて大きくなります。風邪などのウイルスによって心臓の受けたダメージが原因です。この病気は発症直後の危険な緊急時間帯を乗り越えれば、適切な治療で数年がかりでゆっくりと回復していきます。この病気も回復に長い期間がかかりますが、ほとんど正常近くまで回復することもあります。心臓の回復とともにサイズは小さくなっていきます。
C:拡張型心筋症、肥大型心筋症
原因不明で完全な治療法が未だ分からない難病です。数は非常に少なく珍しい病気であるのがせめてもの幸いです。ゆっくりと心臓の筋肉が損傷を受け長期間かけて心臓が大きくなっていきます。大きくなってしまった心臓を小さくするのは非常に難しく、完全な治療法はまだ分かっていません。
D:負荷が重く長期で筋肉損傷
2)でお話しした負荷で大きくなった心臓の場合は、その負荷を放置すればいずれ心臓の筋肉の損傷が起ってきます。そうなった場合には損傷を元に戻せない場合があります。そんな時には心臓は小さく出来ません。小さく出来るか否かは損傷の程度によるでしょう。心臓の負荷を早く取ってやることが、心臓を守るために大切なのです。
最後に
以上の様に、大きくなった心臓にはいろいろな原因があります。その問題を根本的に治療できれば、大きい心臓を回復させ小さくすることが出来ます。心臓の病気の種類によってその治療方法は違います。それぞれの病気の詳しい治療法は主治医にお聞きください。
続く・・・
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