心臓病とともに生きる
●人生観を変える必要があることも
ゆとりをもち、のんびりと、規則正しく、愉快で楽しい生活の人生観に
健康の両輪は体重減量と運動です。上手に実現しましょう
→◆236 健康づくりの両輪:現役時代はダイエット、定年後は運動優先に
●肥満から、スリムに
●弱った心臓をいたわる
→◆125 心不全治療とは、誰でもわかる、心臓をいたわることです
●水分制限で、心不全を予防する
●運動療法も同時に
生活スタイルの変更
心臓病の治療は大きく分けて,生活スタイルを改善すること,危険因子を減らすこと,薬による治療があります。
1)日常生活スタイルの改善
穏やかな日常生活、ストレスを減らす、十分な睡眠時間,バランスの良い規則正しい食生活,A型行動パターンであればその生活を変える,休日の気分転換の時間を十分に等をお勧めします。
仕事中心の人生観を変更する必要性があるかもしれません。
参考情報:A型行動パターン=野心的、怒りっぽい、攻撃的な性格
アメリカの心臓病学者のフリードマン博士とローゼンマン博士の二人は,野心的(ambitious),怒りっぽい(angry),攻撃的(aggressive)な性格を持った人をその特徴的な性格の頭文字がすべてAですからA型行動パターンと分類しました。
ストレスに対して、挑戦的に対応するこのタイプの人は、狭心症や心筋梗塞をはるかに起こしやすいことが分かりました。交感神経系が活発化され心臓も過度に刺激され、心臓の負荷が増えてるでしょう。
参考情報:戦闘=強烈なストレスは、若い兵士の血管老化を加速した。
ベトナム戦争という極限のストレス状態に曝されたアメリカ軍兵士の解剖結果が発表されています。
戦死した18歳から22歳までのアメリカ兵の17%では、40歳以上の老化した血管となっていました。また7%では心筋梗塞直前の高度に粥状硬化した冠動脈であったそうです。
戦闘という非常に強いストレスの継続が、いかに若者の血管の老化を早めるかが分かった貴重な報告として有名です。
2)危険因子を減らす
以下の因子があると、心臓を養う冠動脈血管もパイプの劣化現象とも言える粥状動脈硬化がおこります。血管が詰まるこの変化進行の早さには明らかな個人差があります。
この粥状動脈硬化進行を強めたり早めたりする危険因子(risk factors)として,以下のようなものがあることが多くの研で分かっています。
この危険因子がたくさんあればあるほど,また危険因子の一つ一つの程度が悪ければ悪いほど,パイプの劣化(血管の老化)は早く強く起ります。冠動脈の老化の終着駅は完全閉塞(心筋梗塞の発症)です。
・高血圧
・高脂血症・高コレステロール
・糖尿病
・肥満・太り過ぎ
・運動不足
・高尿酸血症
・タバコ
・ストレス
・A型行動パターン
■高血圧:
全身血管の老化進行の非常に強い促進因子です。★血圧は125/75mmHg以下にしておきましょう。
■高脂血症・高コレステロール:
高脂血症は生まれつきの場合を除き,食べ過ぎと飲み過ぎや肥満の結果です。動脈硬化は血管にコレステロールや中性脂肪が沈着し,血管の表面をザラザラにします。この血管表面の変化が更に強い粥状硬化を進行させます。特に、★LDLコレステロール/HDLコレステロール比を1.5以下になるようにしましょう。
■糖尿病:
糖尿病によって冠動脈の表面細胞代謝に異常が起きて粥状硬化が促進されると考えられています。糖尿病の患者さんには高血圧,高脂血症,肥満等のその他の主要な冠動脈の危険因子が伴い易いのも重要です。★食後2時間の血糖値は140以下に、HbA1Cは6以下になるようにしましょう。
■運動不足:
運動が血圧を下げ,脂肪を消費してコレステロールが低下し,肥満防止にも有益です。運動自体が血管の老化を防ぐことも予想されています。心肺機能を強化することはもちろんです。
理想的には毎日30分以上の運動を、★最低でも週に一回の2時間以上の運動を、習慣となるまで継続しましょう。
■太りすぎ・肥満:
中年以降の肥満は高脂血症や糖尿病などの危険因子を伴っていることが多いのです。肥満そのものの影響も予想されています。★BMI<23位を達成するようにスリムな体型になって下さい。 注:BMI=体重Kg/(身長mX身長m)
■タバコ=二十代、三十代ほど危険:
タバコは冠動脈の動脈硬化を早めます。二十代や三十代で狭心症や心筋梗塞になった方ではタバコとの関係が非常に強いことが分かっています。
若い人ほどタバコは危険です。年代を問わず禁煙しましょう。
3)薬による治療
病気によって変わります。各病気を読んで下さい。最も大切なのは、薬をキチンと継続して内服することです。
どんなに良い薬でも、いい加減に飲んでいればその効果は得られません。真面目に飲み続けましょう。
新生活スタイルの提案
心臓病を上手にコントロールできれば、無理はききませんが、人生をゆったりと豊かに楽しく生きていけます。
決して悲観的に考えず希望を持って生きてください。きっと良くなるでしょう。
クラシックカーに例える
病気で弱った心臓を愛すべきクラシックカーに例えてみましょう。
あなたにとってはかけがえのない大切な宝物ですが,何しろ古い年代物の車ですから,扱いがむづかしくて困ります。
快適な乗り物とは程遠く,ちょっと無理な運転をすればすぐにエンジンはオーバーヒートします。
手入れを怠ると油は漏れ,電気系統は修理の連続です。高速道路での運転は諦めなければなりません。
しかし,これは唯一無二の愛すべき自動車なのです。弱った心臓とともにどの様に生活すれば良いかを暮らしの時間軸に沿って説明します。
●朝のウオームアップ
睡眠中は迷走神経が優位であり心臓は休息状態にあります。日中は交感神経優位の活動状態になります。朝,起床後は迷走神経優位な状態から交感神経優位な状態に転換する”自律神経の嵐”の中の時間帯です。
この時間帯は心臓のエンジンがかかり始めの時であり,安定した心臓の活動状態になるまでのしばらくの時間,エンジンのウオームアップが必要です。
そのため起床後から3時間までは心臓に突然大きな負担をかけないように注意します。特に寒い冬が要注意です。
●寒い朝に、暖かい布団の中からパッと飛び起きたり
●重い布団の上げ下ろしをしたり
●朝の洗面所で、冷たい水に手を入れたり
●寒い日に、朝の新聞を取りに外に出たり
●すごく寒いトイレで用を足したり
●排便のため、強くいきんだり
●重い荷物を、急にパッと持ち上げたり
●重い荷物を、長い時間持ち歩いたり
●通勤中で、急に走ったり
●坂道や階段を、急いで上ったり
●長く拭き掃除をしたり
するようなことは,ウオームアップ中の心臓には負担があると思います。朝は穏やかに生活して下さい。
●日中の活動
日中は心臓は交感神経優位の活動状態に入っていますので,応分の負担であれば対応できるようになっています。ウオームアップも終わり,アクセルを少し踏んでもエンジンは滑らかに回転数を上げることが出来るようになったと考えても良いでしょう。
この時間帯では朝の時間帯ほど厳重な注意は必要ありません。しかし,あなたの心臓は弱った心臓であり,年代物のクラシックカーであることを忘れないで下さい。いたわりながら走らせることが肝要です。
●この車を時速100Kmで走らせるのは無謀で残酷です。
→疾走しない
●急発進したり,無理な追い越しをしたり,急ブレーキを踏んだりすることは厳禁です。
→急に運動を始めない。ウオームアップ,クールダウンが必要
●のんびりとマイペースで運転を楽しみながらドライブすることです。
→緊張したり,イライラしたり,怒鳴ったり,激しい論争をしたりなど、感情の大きな起伏を避ける、ストレスを避ける
●重い荷物を積むことは出来ません。
→肉体労働を避け、競争や成績を争うスポーツは避ける。過度なスポーツをしない
●急な坂道は途中で休みながら上って下さい。一気には上らないことです。
●暑い夏や寒い冬はこの時代物の車にとっては厳しい季節です。暑い夏はオーバーヒートしないように休み休み運転し、寒い冬は冷たい風や雪が大敵です。
→特に暑いところに長時間いない、温度差を大きくしない、寒さを避けること
●ガソリンやオイル類は,例え少しばかり高価であっても、この車に最適な良質なものだけを使用して下さい。この車に最も適したものが何であるかを良く知っておいて下さい。
→食事や飲み物は、量と質ともに十分配慮する
●気分転換のためにも,眺めの良い場所を選んで,ゆったりとドライブを楽しんで下さい。
→気分良く軽い散歩をする
●最後に,一日の運転が終わったら大切な車を充分に手入れして明日の運転に備えておきましょう。
→薬を欠かさずに服用する。毎日充分な睡眠と休養をとる。何か楽しい趣味の世界をもって下さい
●夜の休息
■入浴
入浴は緊張をとり,血管が開いて血圧が下がり,血液の循環を改善して新陳代謝を高め,明日への活力を高め,安眠の効果もあります。この効果を活用するためには,入浴はぬるま湯で,胸までつかり,ゆったりとした気分で,時間は15分間ほどであがって下さい。
熱いお湯で,首までつかり,長時間入っていますと心臓に対して負担となり,せっかくの入浴の良い点が帳消しになってしまいます。
■性生活
性行為は長く親しんだ夫婦の場合には,心臓に与える負担はそれほど大きいものではないとされます。不安なら予防投与の方法も良いでしょう。
もし行為の最中に心不全や狭心症発作を起こしたりするようであれば,行為の15分前にニトログリセリンを一錠舌下投与しておくと予防に良いでしょう。発作が不整脈であれば,発作時に飲む薬を一時間ほど前に内服するのも良いでしょう。
夫婦間の行為についてはあまり神経質にならなくとも良いと思います。どうしても心配なときは,トレッドミル運動負荷試験で不可の許容範囲の程度を調べておくと良いでしょう。→◆154 心臓発作後でも、性活動は続けてよい(News記事)
配偶者以外との行為では,興奮の度合いも高まり心臓や血管への負担も増大することが予測されます。行為1時間ほど前に前述の予防薬を服用しておいた方が安全でしょう。行為中は血圧も上がりますので心臓病だけでなく同時に血圧の薬も適量飲んでおくとよいでしょう。薬の量については主治医と相談して下さい。男性の方が女性より行為中の心臓発作が多いとされます。
バイアグラ系の性機能改善薬は狭心症、心筋梗塞、心不全などでよく処方される薬との相性が最悪です。両方を併用すると命に関わる場合もありますので、その薬に関しては主治医とよく相談して下さい。一般的には飲んではいけない薬だと考えておいた方がいいでしょう。
■睡眠
充分な睡眠は大変重要です。睡眠不足は血圧を上昇させ,不整脈を誘発し,狭心症発作を起こす場合もあります。睡眠不足は体力の回復が不十分となるだけでなく,規則正しい生活のリズムが狂ってしまいます。良く眠れる環境を整えておきましょう。
どうしても良く眠れないときには,睡眠薬を服用することも必要です。しかしこれは習慣性になりやすいですから、出来るだけ続けて飲まないで時々内服にとどめましょう。
心臓の病気のためには充分な睡眠がとれるのであれば適量の睡眠薬服用も良いと思われます。6時間程度の睡眠時間をとりましょう。
■最後に
このように生活すれば心臓病があってもこれからの人生を十分に豊かに楽しく生きられます。
本人の意志と努力が非常に大切です。諦めずに、決意して新しい人生を始めてください。残りの人生の豊かな成功を祈ります。
この章のまとめはここに→ けやき坂スタイル