

高血圧を薬で治療すると血圧が下り過ぎて危険ではないかと不安に感じる人がいると思います。
薬剤治療で血圧が必要以上に下がり過ぎることはありますが、軽いめまい、ボーとする、体がだるい等がほとんどで決して危険な症状ではありません。条件によっては意識消失のため転倒や事故が誘発される可能性がないわけではありませんが、慎重に薬を選び患者さんも体調変化に注意すれば、そのような重大なトラブルは避けられるでしょう。
血圧を下げて得られるメリットとデメリットの比較になりますが、可能なら正常血圧近くまで下げる治療で、若々しい健康な体を獲得して下さい。
次のコラムも参考になります。 ◆314 心臓病や低血圧でおきる「危険なめまい」とは?
その血圧は、低すぎか?

低すぎる血圧とは
高血圧で降圧薬を飲んでいる人は、薬が効きすぎて血圧が下がり過ぎてしまう事があります。血圧は高いと弊害が多いのですが、下がり過ぎてもまた問題となります。皆さんが下がり過ぎた血圧と思っても、無症状で元気であればあまりその低い血圧に不安を持つことはありません。体調がしっかりしていればその程度の低い血圧でもあまり問題となりません。
患者さんが低いと思う血圧は人によりますが、血圧が120mmHg台でも下がり過ぎと思う人がいます。条件にもよりますが、この血圧は正常血圧です。ある意味理想的なよい血圧といってもいいと思います。
若い女性では、100mmHg以下でも普通の生活
高校生や20歳前後の若い女性が風邪等で当院を受診することがあります。たとえ風邪であっても私は血圧を測りますので、このような若い女性の血圧を診察する機会が良くあります。若い健康な女性の血圧は、上が100mmHg前後やそれ以下は普通のことです。全く健康に生活しています。
こんな人では低血圧の症状はほとんどありません。健康であれば、年齢にもよりますが、上が100mmHg前後で何も問題ない血圧だと思います。その人にとって「血圧が低すぎる」基準とは何かですが、年齢、持っている病気(合併症)、家庭血圧の値によって変わるでしょう。
正常血圧で、無症状なら、低すぎではない!?
高齢者で脳血管障害、心臓病、腎臓病の合併症があって血圧が170mmHgの人に、強い降圧薬で一気に120mmHg程度まで下げるならそれは下げ過ぎでしょう。かなり危険な下げ方だと思います。しかし高血圧以外に合併症がなければ、ゆっくりと数か月後に120mmHgであれば危険なほど低いとは言えません。
この様に「低すぎる血圧」とは患者さんの体の基礎条件によって違いますから簡単ではありません。ここでは大変に大雑把ですが上の血圧が100mHg以下で、低血圧の症状も同時にある場合を「低すぎる血圧」としておきます。
降圧目標を厳しくすれば、低血圧になり易い
高血圧の薬を毎日服用している患者さんです。当院の様に高血圧の治療目標を家庭血圧で125mmHg以下、診察室では130mmHg以下になるよう薬を調節しているなら、ある状況下では100mmHg以下になる事は十分にあり得ますし、なる事を想定しなければなりません。低血圧の症状が出るようであれば降圧薬を変更する必要があります。
外来で降圧薬の調整には神経を使います。高くならないようにしながらも、同時に低くなり過ぎないよう緊張感を持ちながら毎回治療薬を選択します。当院では最初の数ヶ月間は2週間毎、それ以後では長くて一ヶ月毎のリズムで診察します。また最初の内は患者さんが毎日家庭血圧を測定しその値が110mmHg以下が続くようなら自己管理で薬を調節するよう説明し、変更する薬の内容も事前に教えます。
この様に細かく薬を管理できれば低血圧の危険なトラブルは回避出来ると思います。しかしどんなに注意しても、一時的に低くなりすぎることを完全に防ぐことは出来ません。家庭血圧の治療目標を125mmHgと低い値にする以上、血圧の一時的な下がり過ぎは避けられないと考えます。
下がり過ぎたために起こったと推測されるトラブルを幾つか経験しました。数年間に1~2回ですが、幸いどれも重大なものではありませんでした。部屋の中でふらついて転びお尻を打った、めまいで転んで頭を打った、運転中にボーとして道路わきに車を乗り上げた等です。ほとんどが高齢者です。
目標を甘くすれば、血管の老化抑制は不十分?
血圧の治療目標を150mmHg程度の高めに設定すれば、様々な生活の場面でも100mmHg以下になる事はほとんどないでしょう。このような場合では血圧が下がり過ぎて不都合な症状やトラブルに出会うことはまずないと思います。
この高めの血圧管理目標では、目標血圧を十分低くした場合に較べて高血圧による血管障害(血管の老化や劣化)の進行を十分に抑制するのは難しくなるだろうと思います。前提条件はありますが、原則的に血圧は「the lower, the better」で、低いほど体によいと言われます。当院では正常血圧まで下げるのを長年の目標にしている理由です。
正常への降圧か、少し高め維持か
血管の動脈硬化(老化)予防を優先し厳格な降圧管理をするか、低血圧の問題を避けて少し高めに血圧管理するか悩ましい問題です。しかし、メリットとデメリットを秤にかけますと厳格な降圧の方が有利だろうと当院では考えました。 ◆031 医学データは、健康な20歳が目標
患者さんに心臓病、腎臓病、糖尿病等が合併しているなら、とりわけ厳格な降圧を維持する事が大切な意味を持ちます。正常レベルに血圧を維持することが、心臓病、腎臓病、糖尿病の病状悪化を確実に抑えてくれます。多くの医学報告があります。 ◆043 心臓病 最も大切なのは正常血圧
低い血圧の症状は?

どんな時に下がり過ぎるか
どんな状況で血圧が下がり過ぎるのでしょうか?高血圧治療中の患者で、血圧が下がり過ぎるもっともありふれた場面は、気温が上がった暑い時です。
春から夏に向かいますと気温が上昇します。気温が上がれば血圧は下がってきます。冬用の強い降圧薬を弱い夏用に変更しなければ、容易に血圧は110mmHgを下回ってしまいます。その時に低血圧症状が出るか出ないかは人によって違います。
低血圧症状はなくても、上の血圧が常時110mmHg以下は避けた方がよいと考えます。低血圧の症状のあるなしに関わらず、この様な患者さんには降圧薬を弱めに変更するのが当院では普通です。原則として、多くの患者さんに冬用と夏用で違った降圧薬を処方しています。 ◆114 高血圧の季節変化 降圧薬も夏冬の「衣替え」
それ以外、一時的に血圧が下がり過ぎる場合としては、
・入浴、シャワー
・飲酒
・運動の終了後
・下痢
・発熱
・高温の環境
・発汗が強い時
・座ったままで動かない生活
等です。体を温めた時や脱水状態になった時が特に下がりやすくなります。一時的に降圧薬を中止するか減量して、水分をよく補給し脱水を解除してやります。患者さんには家庭血圧測定の意義をよく知ってもらう事と、脱水の可能性が高い時は薬を減らす事を事前によく説明するようにします。
下がり過ぎの症状は?
高血圧の薬を飲んでいようといまいと、血圧が下がった時の症状に大きな違いはありません。血圧が下がり過ぎると、最初に現れる症状は脳に血液が十分に回っていない症状ですから、いわゆる「脳貧血」の症状です。
下でその症状をお話ししますが、それと別の症状まで低血圧と間違わないようにして下さい。薬による有害症状で低血圧以外なら、顔がほてる、体が熱くなる等ですが、これは別コラムでお話しします。 ◆128 高血圧 誰でもわかる、薬の副作用はどんなものですか?
・ボーとして体がシッカリしない
・フラフラする
・立ちくらみ
・しゃがんでて立ち上がると、一瞬クラーッとなる
・だるくて疲れやすい
・頭がボーッとする
・元気が出ない
・意欲が低下
・判断力が低下
・注意力が散漫
・あくびが多発
・眠気が襲う
・認知症の症状が悪化
・全身の倦怠感、脱力感
・一時的な意識消失
等です。なかでも大切なのは「眠気」と「集中力や注意力の低下」です。危険な作業や車の運転などの方は特に注意が必要です。高齢者なら「認知症が悪化」しているように見えるかも知れません。認知症の進行・悪化と誤解されてしまいます。
まとめ
厳格な降圧で得られるメリットとデメリットを考えて、低血圧の重い症状は滅多に出ないので一時的な軽い症状を恐れず、正常血圧まで下げておきましょう。体調の注意深い観察と降圧薬の慎重な選択で、若々しい健康な体を獲得して下さい。 ◆258 高血圧 それでも、長生きできますか?
降圧の目標値:正常血圧

*参考情報
当院の降圧目標値
当院での目標血圧は以前の日本の学会の正常血圧を指標にしました。
●診察室 130/80mmHg 以下
●家庭血圧 125/75mmHg 以下
長い間この値を目標にして、降圧薬を増減してきました。
米国心臓病学会(ACC)・米国心臓協会(AHA)
2017年11月の米国心臓病学会(ACC)・米国心臓協会(AHA)の高血圧ガイドラインでは、以下の様に基準がかなり厳しく改定されました。
●正常血圧 120/80mmHg 以下
●高血圧 130/80mmHg 以上
そして・・・
高血圧の五部作
血圧は高度に自動制御されている:
◆248 高血圧 測る度に違う。どの血圧が本当か?
高血圧にはハッキリと症状がある:
◆239 高血圧 三大症状
急に血圧が上がる理由は?:
◆080 安定していた血圧が急に上がった その原因は?
薬で下がり過ぎることもある:
◆254 高血圧 薬で下り過ぎると危険ですか?
薬でも下がらない訳は?:
◆064 薬を飲んでも、血圧が下りません
高血圧でも、長生きするなら・・:
◆258 高血圧 それでも、長生きできますか?
高血圧コラムの中心サイト:
Web高血圧:高血圧のハブ
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