心不全の初期症状ですが、あまりに月並みで驚くほどありふれています。特徴がありません。弱った心臓におこる最初の重要な症状ですが、
動くと疲れやすい、息切れ、ドキドキする等です。こんな症状なら別の病気でもよくありますから、心不全とは考えず勘違いしてしまいます。
誤解される病気は、年のせい、風邪、過労等です。放置するかも知れません。一部の人には心不全が隠れていますがこの症状から心不全を思いつくのは無理でしょう。もし治療しても治りにくく長引くなら心不全を疑って専門医に相談するとよいでしょう。
以上はゆっくり病気が進行する慢性心不全の話です。急に心不全になる急性心不全は違います。発症したら苦しく誰もが急いで病院に向かうでしょう。今日は急性心不全と較べはるかに患者が多く穏やかに進行する慢性心不全について話します。
心配な時は医師に相談ください。
◆222 心臓病 症状から自己診断は、リスクあり危険
心不全の初期症状
心不全の初期症状:あまりに月並み
心不全が進行し重い症状なら誰でもその異常に気付きます。しかし心不全が最初に現れる初期の症状は意外に軽くて気付かなく見落とされるか他の病気と勘違いされてしまいます。あまりに月並みでありふれた症状だからです。
自分に心臓病があると知らないなら初期の心不全症状は別の病気と誤解されてしまいます。例えば「疲れだろう」、「貧血のためだろう」、「年のせいだろう」、「たばこを吸っているからだろう」、「無理がたたったのだろう」などです。
誤解すると軽く見て病院を受診しないかもしれません。出来るだけ早く心不全の原因となった心臓病を発見し治療を開始しなければなりません。治療を開始しなければ心不全は進行していくからです。
誤解されやすいそんな慢性心不全の初期の症状についてお話しします。
*注意*慢性心不全と急性心不全の違い
心不全には慢性心不全と急性心不全があります。心臓病の進行が穏やかで心不全がゆっくりと進行していくのが慢性心不全で、突然の心臓病発症でいきなり重い心不全になってしまうのが急性心不全です。
心筋梗塞、狭心症、心房細動、房室ブロック、洞不全症候群、拡張型心筋症、肥大型心筋症、心臓弁膜症などの心臓病を長年放置していたり、十分な治療や管理をしなかった時には徐々に進行して心不全の症状が現れます。それを慢性心不全といいます。
一方それらの心臓病が初めて発症した時、短時間のうちに危険な状態になってしまう重症の急性心不全があります。それは重症な急性心筋梗塞や狭心症発作時におこる虚血性心不全、発作性心房細動や心室頻拍が起った時になる頻脈性心不全、風邪などのウイルス感染症がきっかけでおこる急性心筋炎に合併する心筋炎性心不全、高度徐脈に陥った時になる徐脈性心不全等です。
患者数は慢性のほうが圧倒的に多数です。急性心不全は数は少ないですが症状は激しくほとんどの患者はすぐ病院に直行するでしょう。今日は数の少ない急性心不全ではなく、圧倒的に数の多い慢性心不全についてお話します。
心不全:症状の段階
初期段階
●軽い運動で脚が疲れやすくなる
心不全(力の弱った心臓の症状)では、仕事や運動などで軽い負担がかかっただけで必要な血液を脚へ十分送り出せないため、脚が疲れやすくなります。軽い運動なのに脚が疲れるようになって「おかしいな、体力が落ちた」と感じるようになります。
●軽い運動でも息切れや、疲れ易く、ドキドキする
心不全では運動時に全身に必要十分な血液を送れませんので脚が疲れるだけでなく、肺に水がたまり始めます。
医学用語でこの状態を肺うっ血,肺水腫,胸水等と言いますが、心不全では肺の酸素取り込み能力が落ちるために全身の酸素不足状態となり疲れやすく心臓がドキドキと速く動くようになります。 ◆心臓が弱ると脈は速くなる ー心不全と脈の関係ー
軽い運動で、呼吸が荒くなり、心臓はドキドキして、息が苦しくハァハァします。軽い仕事や運動でも酸素不足が原因ですぐに疲れ易くて息が切れるのです。 ◆心不全の予防 予備軍を発症させない日常の工夫
中程度の段階
●足のむくみ、体重増加、食欲低下、全身倦怠感に
更に進行しますと、水が全身に貯まります。この段階は心不全の初期症状を超えて中程度の段階に来ていると言えます。
最初は足のすねがむくみます。すねに靴下の痕が残ったり,指で強く押すとはっきりした凹みの痕が残ります。
次にお腹の肝臓や胃腸の周囲にも水が貯まりますと、肝臓が腫れたり押すと痛みがあったり,お腹全体が少し盛り上がって膨れてきたり,食欲がなくなったりします。この症状は患者には自覚しにくいでしょう。
肺にたまった水を外に吐き出すために、咳や痰がでるようになります。
●体重増加が多い、顔のむくみ、呼吸が苦しくなり、咳や痰がよく出る
体の中に貯まった余分な水がさらに増えますと、顔にまで水が貯まりますから顔がむくんでいるのが分かります。瞼がはれるのが一番分かりやすいでしょう。
過剰な水が体の一番低い位置の脚から始まり、おなかへ、更に高い所まで及び、体で一番高い場所の顔にまで水がたまった所見です。
この段階では全身に貯まった過剰な大量の水のため、体重は少なくとも5キロ以上は増えているでしょう。10キロ以上くらい増えていることもあります。 ◆心不全の予防 体重増加の目安を知りたい
中程度から重症のレベルに入った段階です。ここまでくれば心不全の初期症状ではありません。
心不全に気づくのは?
どこで病気と気づくか?
症状の進行段階をお話ししましたが、患者がどの段階で自分の健康状態の明らかな異常に気付くかです。
最初の初期段階の症状は軽いので、もし自分が心臓病だと気付いてなければ、これだけで自分が心不全だと思う人はいないでしょう。多くの人は「疲れだろう」、「過労だろう」、「風邪だろう」等と納得して何もしないかも知れません。
自分が心臓病で治療中の人でさえ初めての心不全発症なら心臓病だと知らない人と同じで、この段階では心不全だと気付かないかも知れません。主治医にもその症状を話さないことも多いのです。話せば心不全のチェックをするのですが、患者が何も言わなければ主治医も心不全発症と気付かず確認の検査も始まりません。
心不全症状を別の病気と間違える
「動くと疲れる、息切れ、ドキドキする」こんな症状は心不全以外にもたくさんあります。患者が自分の症状を心不全とは思わず別の病気と勘違いしてしまうことは普通のことです。そしてそれが心不全の発見を遅らせてしまうことになります。患者や診察した医師までもが間違えてしまうよくある病気とは、
間違えやすい病気は・・
運動不足、年のせい、過労、睡眠不足、ストレス過多、肥満、風邪など
似た症状の病気
・癌、白血病など悪性腫瘍
・肺気腫などの呼吸器疾患
・貧血などの血液疾患
・高血圧、低血圧など血圧異常
・慢性下痢、慢性肝炎などの消化管肝臓疾患
・うつ病などの精神神経科的疾患
・甲状腺機能低下、更年期障害などの内分泌疾患
・感染症、結核などの慢性の感染症
・糖尿病の高血糖状態など
・糸球体腎炎などの腎臓・泌尿器系疾患
・ビタミン欠乏症、電解質異常など
心不全か? 疑う条件
多くは心不全ではない
私たちの様な第一線クリニックなら、こんな心不全初期症状と似た症状を示す患者で一番多い原因は「日頃の運動不足」で身体機能が落ちている人でしょう。そしてこれは病気ではありません。
もし病気なら、高血圧、貧血、肺の病気、悪性腫瘍などの体力消耗疾患、肝臓病、心臓病などが大雑把な順番です。
心臓病が原因の心不全は実際には少ない部類になると思います。だからこそ「動くと疲れやすい、息切れ、ドキドキする」が起きても普通は心不全だと考えず別の病気と考えてしまうのです。そして大半はほぼそれで正しいのですが・・・。しかし一部の人では確かに心不全はあるのです。
残念ながら症状だけから心不全と予想することは困難です。初期の心不全なら、病院でいろんな角度から総合的に検査する必要があります。医師にとってもそれを心不全と判断するのはなかなか難しいのです。
心不全を疑う場合
自分が心不全ではないかと疑う目安は、「動くと疲れやすい、息切れ、ドキドキする」の症状があって、それがなかなか治らない。病院にかかって心不全以外の治療をいろいろしても効果がはっきりしないような場合です。
「心不全を心配しています」と内科できれば専門医にはっきりと言って相談ください。心不全の診断は複数の検査を組み合わせて多方面からしますので少し時間がかかるでしょう。
初期段階の心不全であれば診断はかなり難しくなります。一般的ですが、病気はすべて初期段階の方が診断が難しいと憶えておいて下さい。
重症になって全ての所見が揃えば診断は研修医でもできるのです。初期の心不全では患者と同じように医師も見逃してしまうチャンスが多くなるでしょう。
私たちのクリニックでは「動くと疲れやすい、息切れする、ドキドキする」で受診する方は少なくありませんが、その原因が心不全であるケースは少ないのが現実です。
心不全で、始めて見つけた心臓病
心不全を起こす心臓病はたくさんあります。その病名を全部並べて書いても皆さんには何の役にも立たないでしょう。
普段から元気に生活していて、心臓の病気のことは気にしていませんでした。しかし少し前からそんな症状が始まりました。「この症状は何の病気だろう?、もし心臓病ならいったいどんな病気だろう?」と疑問が起こりました。
隠れた心臓病は? 心房細動、心筋梗塞、弁膜症、心筋症・・
前提条件を無視して一般的にお話しするのは難しいのですが、割り切ってお話しします。
自分に心臓病があることを知らない人におこった心不全症状なら、原因は心房細動、心筋梗塞、心臓弁膜症、高血圧性心筋症、徐脈性心不全、ウイルス性心筋症、拡張型心筋症などの可能性が高いでしょう。 ◆心不全の原因 健康な人でもなりやすい病気
年齢、性別、背景、合併症によって変わりますが、私たちのクリニックなら一番頻度が高いのは心房細動です。当院では心筋梗塞や心臓弁膜症はかなり頻度が低くなります。心不全をきたすそれ以外の心臓病は稀です。
この様な心臓病が既にあることが分かって治療中の患者は、心不全の予備軍ですから心不全発症にいつも注意して生活するとよいでしょう。
そして・・、心不全の治療は?
心不全の五部作
心不全の初期症状:
◆325 心不全の初期症状:ありふれて、間違えやすく、治りにくい
心不全の治療:
◆125 心不全の治療 その原則は心臓をいたわることです
心不全の予防:
◆025 心不全の予防 水は毒! 水分制限が一番
心不全とは?:
◆266 心不全とは? たとえ話でやさしく説明
深夜の心臓発作:
◆268 心臓発作 夜中なら不安と恐怖 ー解説と対処法ー
心臓病の究極予防:
◆369 心臓を健康にする ー心臓病・心不全の超予防ー