心不全とは既に何かの心臓病を持っている人に起こる病気です。心臓病と全く無縁なら心配ご無用でしょう。ここを読む必要はありません。
心不全の始まりは階段の昇りで息切れがします。重くなると夜中に息苦しくて、座った姿勢でゼーゼー、ヒューヒューと苦しい呼吸をします。仰向けの姿勢では苦しくて寝ていられないのです。窓を開けて酸素を一杯に吸いたくなります。苦しくて死ぬ思いなのです。
こんな苦しい心不全の予防とは、治療で病気の心臓をよい状態に保つのは勿論ですが、日常生活では、運動は適度に抑え、水分や塩分は厳しく制限する、腹八分で過食は控える、風邪などの感染症や他の病気にならない、減量でスリム体型を維持、体調に変化あればすぐ主治医に相談する等です。
自分で出来る心不全発症の予防では、とりわけ水分と塩分の制限が重要です。
心配な時は医師に相談ください。
◆222 心臓病 症状から自己診断は、リスクあり危険
心不全の予防と水分制限
心不全の始まりは、階段の昇りで息切れがすることです。階段が辛くなります
心不全が重くなると、夜中の睡眠中に息苦しくなって起き上がり、座った姿勢になってゼーゼー、ヒューヒューと苦しい呼吸をします。
布団の上で仰向けの姿勢では、苦しくて寝ていられないのです。窓を開け放ち、酸素を一杯に吸いたくなります。
「これで死ぬかも・・」の恐怖
心臓病があり別の病院で治療していたのですが、体調が悪化してなかなか良くならないので、当クリニックを訪れるケースです。
診察して現在が心不全状態であることを説明し、現状と今後の治療について詳しくお話します。薬を変更しますが、今後の日常生活についても注意事項を説明します。この時ほとんどの患者さんは飲水についての認識が欠けています。
日常生活で水分制限が極めて大切なことを理解していないのです。心臓病があり心不全予備軍状態の患者さんにとって、心不全を予防することがいかに大切なことか。
心不全になれば体調が悪化し、疲れやすく、食欲は減退し、息切れがして、重くなれば夜間に息苦しくて仰向けで寝ることができず、起き上がってハーハーしています。
夜中に苦しくて、「これで死んでしまうかも・・」と、不安になることさえあるでしょう。これが心不全です。
予防は命が懸った行為
こんな苦しいことになりたくなければ、心不全の予防は命がかかった大切な行動です。 心不全予防にとって、日常生活で注意事項の一番目が水分制限なのです。
心不全では、「水は毒!」と認識
心不全予備軍の患者さんは、水分を厳重に制限しなければなりません。
この患者さんにとって、まさに「水は毒」なのです。「水が毒なんて・・・」と、不思議な顔をされますが、普通の人にはどれだけ飲んでも無害な水が、心不全予備軍の患者さんには「重大な毒」だと認識を変えていただかなければなりません。
水の過量摂取は命を奪うことにもなるのです。 繰り返しますが心不全予備軍の方には「水は毒」であると認識してください。どんな形であっても、水はダメです。
長く続けた水分制限をしばらく中止しただけで、心不全の緊急入院となったケースもあります。 ◆310 水分制限を中断した それだけで重症心不全に!?
水分制限の重要性
心不全では体の中に水が貯まり過ぎている状態ですから、酸素ボンベなしで潜水したのと同じで”窒息”してしまいます。
水分と塩分、厳重な制限を
たとえば、普通に飲む水以外に
●お茶、
●ジュース、
●ミルク、
●アルコール(特にビール)、
●水分の多い果物(スイカ、グレープフルーツなど)、
●味噌汁、
●かき氷,
●水を欲しくなる塩味の濃いもの(漬物、梅干、煎餅、羊羹、そばつゆ)も、
全部水分関係と考えて下さい。
心不全の重症度にもよりますが、水分は一日の総量で、1000mi~1200mi(限度1500ml)程度にしてください。
普通のコップで5~6杯までです。かなり厳しい量です。
乾燥体重(ドライウエイト)
少し厳しい内容ですが、水分制限を厳重にするべき心不全患者さんを例に説明します。
まず最初に体の中にたまったジャブジャブの水を一旦全部取り去ります。体内から余分な水分がなくなって、少し乾燥気味の体になるようにします。これには治療を開始してから、ほぼ1~2週間程度かかります。
体内の余分な水が全部消えてなくなった時の体重を、その人のドライウエイト(乾燥体重)と考えてください。
このドライウエイトは、恐らく心不全で苦しかった時の水ジャブジャブ状態の体重と比べて、3~5キロ以上、場合によっては10キロ以上も少ないでしょう。それだけの水が体内に溢れていたのです!。
ドライウエイトより少し多めの体重を指標
日常生活上での飲水量の管理は、このドライウエイトより少し余裕を持たせた体重を基準体重とします。これは主治医とよく相談して決めてください。
このドライウエイトは少し乾燥した体重ですから、すぐに脱水状態にならないよう少し余裕を持たせた体重(基準体重)にしなければなりません。どの程度余裕を持たせるかでいろんな考え方があります。
毎日決まった時間(起床時や寝る前など)に体重を量り、記録を残します。その記録を診察の度に私に見せて下さい。
その計測体重が基準体重から1~2キロ増加の範囲内で動いていれば水分管理は上手くいっています。3~4キロと増加してきたら、心不全発症に近づいてきたと考えてもいいでしょう。5キロ以上増えたら、心不全症状がすでに出ているでしょう。
このようにして基準体重を指標に、体重を毎日測りながら水分摂取量を管理していけば心不全を相当程度予防することができます。
私の外来では患者さんが心不全を起こして来院することは稀にしかありません。みなさんこのように水分の自己管理を上手にしておられますので、心不全状態にほとんど無縁の元気な毎日を過ごすことができています。
心不全予備軍の体重増加の目安については、次を読むと参考になるでしょう。 ◆193 心不全の予防 体重増加の目安を知りたい
また心不全が何度も繰り返す原因の多くは、飲水の管理不良と思います。以下は、その点の注意と理由を書いたコラムです。 ◆220 心不全 繰り返し起こるのはなぜ?
まとめ
”弱った心臓では、ただの水でも毒”
心不全とは様々な原因によって心臓が疲れた状態です。そんな心臓には「ちょっとした追加の負担」がかかっただけで息切れとなってしまいます。
健康な心臓であれば全く問題にならない程度の水分摂取や感染症といった「ちょっとした追加の負担」で心臓がダウンし心不全が悪化してしまいます。
そして軽い血圧上昇やただの肥満でさえもその負担増の原因となるのです。 ◆206 肥満 心臓病には負担 重症なら悲鳴!
当院の経験で心不全が悪化するもっとも多い原因は、患者さんが無意識のうちに水分を過量に摂取していることです。「水の入りを制すれば」心不全悪化を相当程度に予防することが可能になるでしょう。
そして・・心不全の治療は?
心不全の五部作
心不全の初期症状:
◆325 心不全の初期症状:ありふれて、間違えやすく、治りにくい
心不全の治療:
◆125 心不全の治療 その原則は心臓をいたわることです
心不全の予防:
◆025 心不全の予防 水は毒! 水分制限が一番
心不全とは?:
◆266 心不全とは? たとえ話でやさしく説明
深夜の心臓発作:
◆268 心臓発作 夜中なら不安と恐怖 ー解説と対処法ー
心臓病の究極予防:
◆369 心臓を健康にする ー心臓病・心不全の超予防ー
心不全コラムの特集:
特集:心不全 症状・治療・予防
★参考情報:心不全の重症度
心不全の重症の程度は以下のような基準を一つの目安として下さい。
■心不全の重症度分類1
NYHA(New York Heart Association)の分類
Ⅰ度 無症状:制限はない。
心疾患はあるが、通常の身体活動に制限はない。
Ⅱ度 軽症:安静時には無症状。身体活動の制限は軽度。
日常的な身体活動で、疲労、動悸、呼吸困難、狭心痛を生じる。
Ⅲ度 中程度~重症:身体活動の制限が高度。
日常的な身体活動以下で疲労、動悸、呼吸困難、狭心痛を生じる。
Ⅳ度 難治性:いかなる身体活動も制限される。
安静時にも、呼吸困難を生じる。わずかな労作でこれらの症状は増悪する。
■心不全の重症度分類2
安田寿一らの分類
重症度1(心不全らしい):
普通に階段を昇ると息切れがするが,途中で休むほどではない。
重症度2(軽い心不全):
普通の階段を昇るとき息切れがして途中で休む。日常の労作のあと,夕方になると下腿にむくみがみられる。
重症度3(中程度の心不全):
普通に平地を歩いていても息切れのため長くは歩けない。また,静かに横になっていても多少の息苦しさがある。下腿にわずかなむくみがある。
重症度4(重い心不全):
部屋の中の歩行,排尿や排便の時に息苦しさがある。静かに横になっていても息苦しい。下腿に明らかなむくみがある。
重症度5(非常に重い心不全):
息苦しくて立ったり歩いたり出来ない。静かに横になっていても強い呼吸困難がある(起座呼吸,夜間発作性呼吸困難など)。下腿に高度なむくみと腹水や胸水もある。