胸が痛い
狭心症と心筋梗塞,不整脈、大動脈弁狭窄症,大動脈弁閉鎖不全症,閉塞性肥大型心筋症,僧帽弁逸脱症候群,心外膜炎、ほか
患者さんへの助言
狭心症かも知れないと思うのであれば,なるべく早く病院を受診し医師の診察を受けてください。
急性心筋梗塞かも知れないと思うのであれば,直ちに病院を受診してください。病気が確定すれば入院治療を受けて下さい。
心配な時は医師に相談ください。
◆222 心臓病 症状から自己診断は、リスクあり危険
はじめに:胸が痛く(胸痛)なる病気について
胸が痛くなる病気はたくさんあります。それについてはここ(◆062 「胸が痛い」のは心臓病?)でお話ししましたが、心臓が原因となることは意外に少なく、ほとんどは心臓以外が原因です。しかし心臓病ではないと決して甘く見ないで下さい(◆222 心臓病 症状から自己診断は、リスクあり危険)。
胸痛の原因となる心臓病のなかで患者数が一番多いのが狭心症と不整脈だと思います。胸痛で最も重症の病気の一つは心筋梗塞ですが、患者数の多さでは狭心症よりもかなり少ないと思います。
狭心症と心筋梗塞は兄弟の様なもので、両者を合わせて虚血性心疾患と言います。狭心症と心筋梗塞、不整脈以外も含め胸痛を起こす心臓病は下記の通りです。
・狭心症
・不整脈
・心筋梗塞
・大動脈弁狭窄症
・大動脈弁閉鎖不全症
・閉塞性肥大型心筋症
・僧帽弁逸脱症候群
・心外膜炎
・ほか
それぞれの心臓病の原因は違いますが、胸の痛みの性質は意外に似ているものです。後から書く狭心症でその胸の痛みの性質を詳しくお話ししますから参考にして下さい。
大動脈弁狭窄症、大動脈閉鎖不全症、閉塞性肥大型心筋症、僧帽弁逸脱症候群、心外膜炎、これらの病気は患者数が非常に少なく、自分がその病気でなければほとんど気にしなくてよいと思います。
胸痛の原因として患者数が最多で注目するべきは「狭心症と心筋梗塞」です。しかしその初期症状は大変静かで軽いことが多く、患者さんはそれをよく見逃します。
この病気を自分で早期発見できるよう早期症状の特徴をまとめて詳しくお話ししました(◆290 狭心症・心筋梗塞の前兆症状は、静かで軽い!)。ここも参考にして下さい。後からきっと役に立つでしょう。
狭心症の症状
1)狭心症の発作(ほっさ)
(突然おこって短時間で治る。胸の中央が痛み、締め付けられるような感じ)
狭心症とは心臓を養う血管(冠動脈)が老化で狭くなり、そこを血液が流れにくくなったために起こる症状です。この病気の症状を発作(ほっさ)といいます。この症状が突然に起きて数分間の短時間で終わって後は何でもないのが普通です。
●典型的な発作:
胸の中央ないし左よりで片手の手のひらくらいの範囲に、
・突然起こる
・乳首の高さで胸の中央部あたり
・手のひらの広さくらいの範囲
・押さえつけられるような,締めつけられるような感じ
・その症状は数分間だけ続くが、自然に消えてしまう
・運動時なら、活動を中止するとしばらくで消える
・消えた後は何もなかったかのように戻る(しばらく違和感が残ることもある)
しかしこの典型症状以外にも、以下のような症状も同時にみられることが良くあります。その症状も発作の間だけ起こります。発作が終わると全てが消えてしまいます。「発作が終わると、すべての症状が一斉に消える」のが大きな特徴です。
●典型的ではないが、珍しくない症状:
・背中も痛い、背中が締め付けられるような感じ
・おく歯の痛み、うずき
・首(のど)の締めつけ感
・肩が凝る
・左腕のしびれやだるさ
・胸やけ感
・外から手をつっこまれて心臓が握りつぶされる
・胸が焼けつく、絞られる
・胸が前から背中に向けて棒で刺される様な
・けだるい。何となく疲れる
・全身が何とも言えないイヤな感じ。身の置き所がないような感じ
・胃のもたれ感
・胃の痛み
狭心症発作の持続時間は普通は30秒から15分程度です。一瞬や数時間から一日続くことは少ないです。しかしそのような場合もあります。
●発作の誘因:
狭心症の発作を誘発する因子として、以下のような事があります。静かにくつろいでいる時でも狭心症発作がおこることが珍しくありませんので、安静時の症状だから、活動時にも安静時にもおこる症状だから、狭心症発作ではないと考えないで下さい。どちらもあります。
・心労やストレスが続いている時
・心労やストレスが終わりホッとした直後
・深夜に寝ている時に限って
・静かにくつろいでいる時、座っている時だけ
・スポーツなどの運動中だけ
・車の運転中
・労働の作業中
・急ぎ足
・坂道や階段を歩いている
・朝の散歩
・買い物の途中
・掃除中
・布団のあげおろし
・寒いトイレ
・家から急に寒い室外にでた時
・寒い風に向かって歩く時
・口論や喧嘩、怒りで興奮した時
・テレビ,舞台,スポーツ,ゲームなどを見て興奮した時
・ゴルフのパットを打つ時
・悲しい出来事があった時
・こわい夢や嫌な夢を見て目覚めた時
・アルコールを多く飲んだ深夜
・性行為中や終わった時
2)異型狭心症(冠攣縮性狭心症・安静型狭心症)
■原因
この狭心症は、代表的な労作性狭心症とは違った症状です。
劣化があまり進んでいないそれほど悪くない冠動脈血管が,痙攣(けいれん)を起こしたように縮んで血液がそこを流れなくなると発作になります。しばらくして痙攣が収まると血流は再開して発作は消えます。
発作の持続時間は数分から30分と普通の狭心症の発作時間よりも少し長めのようです。代表的な狭心症(労作性狭心症)のように活動中や運動中の時に発作が起こるのではなく、安静時、睡眠中や比較的静かにしている時に起こるのが大きな特徴です。
■特徴
このタイプの狭心症は日本人に多いと考えられています。症状そのものは労作性狭心症と似てますが,目立った違いは次の点です。
・中高年の女性に多い
・運動中ではなく、ほとんどが静かにしている時におこる
・夜中から明け方、朝8時頃までの深夜の睡眠中におこることが多い
・前日アルコールを多く飲んだ日の明け方になる傾向
・心労などが終わって、ホッとした時に起こる傾向
このタイプの狭心症は最初の半年間は発作が多いけれど,その後は次第に発作が少なくなっていくようです。しかし,発作時に失神したり、心筋梗塞になったり、突然死することもあるので決して油断は出来ない病気です。
■治療
この病気には発作の予防薬として、カルシウム拮抗薬が効果的ですが、いつも誰にでも有効というわけではありません。治療に抵抗するタイプもあります。いったん発作がおこった時は、普通の狭心症と同じくニトログリセリン舌下投与が有効です。
3)「第3の狭心症」と言われ女性に特有の、微小血管狭心症
最近この狭心症が注目されています。新しくて「第3の狭心症」とも言われ、中高年女性に多く、病院を受診し多くの検査をしても所見が何もなく、診断が付きにくく、原因不明の病気とされて長期に悩んでいる方が多いようです。当院では、不思議な現象ですが知的な(職業の)女性に好発する傾向があると感じています。その主な特徴は、
(1)安静や就寝中に起こる。動いてる時はほぼならない
(2)普通は数分で消えるが、数時間から一日と長時間続くことも珍しくない
(3)ニトログリセリンが効きにくい
(4)その他・・・
詳しくはここで説明しました。→◆117 女性に特有で、診断つかず不安が長びく心臓病
4)狭心症:初期症状の一般的特徴は?
狭心症の初期の一般的な特徴は、
●場所は胸から背中にかけての中央部周辺でおこります。
●胸が痛いこともあるがその多くは、押される、締め付けられる、奇妙な感じや嫌な感じなどで、何とも説明しにくい、今まで経験したことのない違和感である
●チクン、チクチク、ズキン、ズキズキ、ピリピリ、ヒリヒリ等ではない
●「あれ?、何だろう、ちょっと気分悪いな」程度の軽さで、苦しい、冷や汗、我慢できない程ではない
●数分から長くても30分くらいの時間ですが、数秒以内ではない
●消えると全くなんともなく、すぐに忘れてしまうくらいだが
●忘れた頃にまたなり
●同じような状況になると、二度三度と繰り返し同じような症状がおきる
●静かにしている時や睡眠中に多いが、緊張、興奮、寒い場所、運動中だけでなる場合もある
●ストレスや緊張が長く続く時や、強いストレスがあったその日になりやすいが
●ストレスが終わってしまった直後にも起こりやすい
●誘因が全く分からない場合も非常に多い
5)労作性狭心症、異型狭心症、微小血管狭心症の違いは?
●労作性狭心症
典型的な狭心症は労作性狭心症ともいわれるように、比較的太い冠動脈が細くなっている病気で、発作は心臓に大きな負担がかかった時だけ起こるのが特徴です。
運動中、興奮した時、緊張した時、ストレスがかかっている時などが発作の起こる場面ですから、負担がかからない安静時や睡眠時には原則として発作は起こりません。
●異型狭心症
異型狭心症(安静型狭心症や冠攣縮性狭心症とも言います)では、労作性狭心症と同じく比較的太い冠動脈の病気ですが、検査しても冠動脈には狭窄部位が見つかりません。
発作は冠動脈が突然痙攣して内腔が狭くなって起こるのですが、その痙攣が解除されれば発作は消えます。この冠動脈の痙攣は原則として、運動時では起らなく安静時や睡眠時にだけ起こるのが特徴です。これが異型狭心症の大きな特徴です。
●労作性狭心症と異型狭心症の混在
しかし多くの患者で冠動脈が狭くなっていると同時に痙攣をおこす血管も同時に存在して、労作性と安静型の両方の側面を同時に持つタイプがあるのも決して珍しくないのです。
発作が労作時にも安静時や睡眠時にも起こります。混合型と言っていいかも知れません。どちらがより優位かの違いです。
●微小血管性狭心症
微小血管狭心症は、問題となる病変のある血管が非常に細い部分であることが特徴で、労作性狭心症や異型狭心症の病変が比較的太い血管にあるのとは大きく異なります。
微小血管狭心症では発作の症状のパターンが、労作性狭心症より安静型狭心症に似ていますが、そっくりではなくむしろ「狭心症らしくない症状」に見えます。
狭心症発作の特徴的な側面を一部分で持ってはいるのですが「これが狭心症の症状か?」と悩んでしまうような症状として現れる場合が多いように思います。
多くの狭心症を診断し治療してきた専門医でも「これは違うだろうな」と思ってしまうような症状があることでしょう。微小血管狭心症は、労作性狭心症や異型狭心症と違って診断が技術的にもさらに難しい ですから、専門医に診てもらいながら診断が確定されず、長い期間神経症とみなされてしまうのではないかと推測します。
それにニトログリセリンの舌下投与の効果がハッキリしないケースが多いことも診断の困難さをさらに難しくしていると思います。
6)狭心症発作と間違えやすいが、可能性が低い症状は?
以下の症状なら狭心症らしくありません。しかし絶対に違うとは言い切れません。症状には大きな個人差がありますので、これだけで違うとは断定できません。専門医に相談してください。
・症状が5秒以下,または60分以上続く
・深呼吸で、症状が変化する
・胸を押したり,叩いたりすると症状が変化する
・体や胸をひねったり、曲げたり、動かすと症状が変化する
・水や食べ物を飲むと、症状が変化する(本物でもあり得ます!)
・皮膚から浅い所の痛み
・痛みが、指先で指し示す狭い範囲に限定する
・痛みが、チクチクした、シクシクした針刺すような鋭い痛み
7)狭心症発作と急性心筋梗塞の違いは?
急性心筋梗塞とは心筋梗塞になって、あまり時間のたたない時期(数日以内)をさします。心筋梗塞になった時の症状は狭心症発作で説明した症状と似ています。しかし大きな違いは心筋梗塞ではより重く重症であることです。
・症状の強さが狭心症よりも強い
・症状の時間が長く、30分から数時間に及ぶ
・冷や汗や吐き気も同時に出現することが多い
・便意(排便したくなる)が同時に出現することがある
・顔色が悪い(蒼白となることもある)
・疲労感や虚脱感が強い
・時に死の恐怖を感じる
・全体的に重症感がある
「症状のリスト」25番(心臓病■01 症状のリスト)がこの症状の典型像です。ほとんどの急性心筋梗塞の患者さんはその症状の苦しさに不安になり,直ちに病院に行き、間違いなく入院治療を受けることになります。
入院して数日は安静など厳重に管理されます。従って、今急性心筋梗塞の患者さんがこの本を読んでいる可能性は少ないです。しかし症状が軽い心筋梗塞もありますので注意が必要です。
8)「胸痛」、その他の病気は?
胸が痛くなる病気は、狭心症や急性心筋梗塞以外にもたくさんあります。それぞれの病気には、痛みの性状や検査結果に特徴があります。狭心症や急性心筋梗塞と区別するのは難しいわけではありませんが、病気によっては区別するのに困る場合もあります。一部の病気の胸痛の違いについては後ほど説明します。→◆062 「胸が痛い」のは心臓病? ー診断の流れー
・肋間神経痛,頚椎・胸椎疾患
・前胸部の筋肉痛
・ヘルペスウイルスによる帯状疱疹
・胸膜炎,肺炎,肺癌,自然気胸
・食道裂孔ヘルニア,食道炎,胆石
・過換気症候群
・心臓神経症
・大動脈弁狭窄症,大動脈弁閉鎖不全症,閉塞性肥大型心筋症
・僧帽弁逸脱症候群
・急性心膜炎,急性心筋炎
・解離性大動脈瘤
・肺塞栓症
9)狭心症 その他の関連コラム
狭心症の重症度
■狭心症発作の推移
症状が変化しているかどうかが重要です。その変化を分類します。
イ)生まれて初めて起こった。=初回発作
ロ)以前にもあったが,しばらくぶりでまた同じ様に起こった。
ハ)以前からあるが,最近起こる回数が多くなった。
ニ)以前からあるが,最近症状が重くなった。
ホ)以前からあるが,最近起こる回数が多くなっただけでなく,その症状も重くつらくなってきた。安静でもおこるようになった。
ホ)が最も注目です。イ)もどう推移するか分かりませんので,注意が必要です。以前と比べて回数が減少したり,症状が軽くなってきた場合はあまり心配する必要はありません。
■狭心症の重症度:CCSの機能分類(Canadian Cardiovascular Society)
狭心症として軽いのかそれとも重いのかそれで治療も変わります。労作性の場合なら重症の程度は以下のような基準が一つの目安です。ただ、安静型狭心症にはこの分類は使えません。
■重症度1: 歩いたり,階段を上ったりしても狭心症の発作は起こらない。激しい長時間に及ぶ運動をしたときだけ発作が起こる。
■重症度2: 急いで歩くと,急いで階段を昇ると,坂道を上ると,食事の後に,寒い日や風の強い日や感情的にイライラしている時,起床後数時間のうちに歩いたり階段を昇ったりした時,300m以上歩いた時,3階まで普通の速さで階段を歩いたりする時に狭心症の発作が起こる。
■重症度3: 100mから200m歩いただけで,または1階から2階まで普通の速さで階段を歩いただけで狭心症の発作が起こる。
■重症度4: ちょっと動いただけでも狭心症の発作が起こり,ほとんど動けない。安静にしていても発作が起きることもある。
狭心症の治療
狭心症の治療
狭心症の治療は大きく分けて,危険因子を減らすこと,生活スタイルを改善すること,薬による治療,冠動脈そのものの治療があります。昔から使われている硝酸薬(ニトログリセリンなど)は今でも狭心症発作の特効薬です。
治療薬
・亜硝酸薬(ニトログリセリン、ニトロペンなど):
重要な薬です。狭心症の発作時はこの薬を口の中で溶かす舌下投与をします。この方法で薬がすぐに効果を発揮します,症状は急速に”潮が引くように”消失します。発作時以外にも、毎日内服して発作出現を予防します。
・ベータ遮断薬:
運動や労働時で起こる労作性狭心症では大変良く効果を発揮します。しかし、安静型には逆効果の場合もあります。
・抗血小板薬(少量のアスピリンなど):
この病気の抑制に有効であることはほぼ間違いないのですが,時に胃にビランや潰瘍を作る副作用があります。
・カルシウム拮抗薬:
特に安静型・痙攣型狭心症、微小血管狭心症に効果があります。
・ニコランジル:
亜硝酸薬と似た作用を示します。
・スタチン:高コレステロール治療薬
本来はコレステロールを下げる薬ですが、血管の動脈硬化修復改善に非常に優れた効果があります。狭心症の老化した血管を回復するのにも大変優れた効果があります。
・エイコサペンタエン酸:
青魚の油ですが、血管の動脈硬化予防に効果があることが分かっています。この薬は青魚をたくさん食べるエスキモーに狭心症・心筋梗塞が少ないことからわかったと言われています。
冠動脈の直接治療
・風船療法:
冠動脈内に細いチューブを差し込み,狭くなっている所でチューブについている風船を膨らませて,狭い部分を押し広げる心臓カテーテル治療です。これは心臓手術を必要とせず,簡単に出来る良い方法ですが,冠動脈を膨らませた後6カ月以内に再び狭くなってしまう(再狭窄)ことが30%から50%の患者さんに起こるという問題があります。
・ステントの挿入:
狭くなった場所を風船で広げて、そこにメッシュで出来たステントを入れて血管を広げたままの状態に維持してやります。この技術で風船治療の再狭窄が劇的に改善されました。
・心臓バイパス手術:
足や胸の血管などを切り出して,この血管を狭くなった冠動脈を迂回するようにつなぐ心臓手術です。
危険因子と生活スタイル
生活スタイル改善・危険因子・薬剤治療
心臓病の治療は大きく分けて,生活スタイルを改善すること,危険因子を減らすこと,薬による治療があります。
1)日常生活スタイルの改善
穏やかな日常生活にする、ストレスを減らす、十分な睡眠時間をとる,バランスの良い規則正しいと食生活を,A型行動パターンであればその生活を変える,休日の気分転換の時間を十分にとる等をお勧めします。仕事中心の人生観を変更する必要性があるかもしれません。
参考情報:A型行動パターン=野心的、怒りっぽい、攻撃的な性格
アメリカの心臓病学者のフリードマン博士とローゼンマン博士の二人は,野心的(ambitious),怒りっぽい(angry),攻撃的 (aggressive)な性格を持った人をその特徴的な性格の頭文字がすべてAですからA型行動パターンと分類しました。ストレスに対して、挑戦的に対 応するこのタイプの人は、狭心症や心筋梗塞をはるかに起こしやすいことが分かりました。交感神経系が活発化され心臓も過度に刺激され、心臓の負荷が増えて るでしょう。
参考情報:戦闘=強烈なストレスは、若い兵士の血管の老化を非常に加速した
ベトナム戦争という極限のストレス状態に曝されたアメリカ軍兵士の解剖結果が発表されています。戦死した18歳から22歳までのアメリカ兵の17%では、 40歳以上の老化した血管となっていました。また7%では心筋梗塞直前の高度に粥状硬化した冠動脈であったそうです。戦闘という非常に強いストレスの継続 が、いかに若者の血管の老化を早めるかが分かった貴重な報告として有名です。
ゆったりとした仕事や生活のリズムに作り変えましょう。
2)危険因子を減らす
以下の因子があると、心臓を養う冠動脈血管もパイプの劣化現象とも言える粥状動脈硬化がおこります。血管が詰まるこの変化進行の早さには明らかな個 人差があります。この粥状動脈硬化進行を強めたり早めたりする危険因子(risk factors)として,以下のようなものがあることが多くの研で分かっています。この危険因子がたくさんあればあるほど,また危険因子の一つ一つの程度 が悪ければ悪いほど,パイプの劣化(血管の老化)は早く強く起ります。冠動脈の老化の終着駅は完全閉塞(心筋梗塞の発症)です。
・高血圧
・高脂血症・高コレステロール
・糖尿病
・肥満・太り過ぎ
・運動不足
・高尿酸血症
・タバコ
・ストレス
・A型行動パターン
■高血圧:
全身血管の老化進行の非常に強い促進因子です。血圧は125/75mmHg以下にしておきましょう。
■高脂血症・高コレステロール:
高脂血症は生まれつきの場合を除き,食べ過ぎと飲み過ぎや肥満の結果です。動脈硬化は血管にコレステロールや中性脂肪が沈着し,血管の表面をザラザ ラにします。この血管表面の変化が更に強い粥状硬化を進行させます。特に、LDLコレステロール/HDLコレステロール比を2以下になるようにしましょ う。
■糖尿病:
糖尿病によって冠動脈の表面細胞代謝に異常が起きて粥状硬化が促進されると考えられています。糖尿病の患者さんには高血圧,高脂血症,肥満等のその 他の主要な冠動脈の危険因子が伴い易いのも重要です。食後2時間の血糖値は140以下に、HbA1Cは6以下になるようにしましょう。
■運動不足:
運動が血圧を下げ,脂肪を消費してコレステロールが低下し,肥満防止にも有益です。運動自体が血管の老化を防ぐことも予想されています。心肺機能を強化することはもちろんです。
理想的には毎日30分以上の運動を、最低限では週に一回の2時間以上の運動を、習慣となるまで継続しましょう。
■太りすぎ・肥満:
中年以降の肥満は高脂血症や糖尿病などの危険因子を伴っていることが多いのです。肥満そのものの影響も予想されています。BMI<23位を達成するようにスリムな体型になって下さい。 注:BMI=体重Kg/(身長mX身長m)
■タバコ=二十代、三十代ほど危険:
タバコは冠動脈の動脈硬化を早めます。二十代や三十代で狭心症や心筋梗塞になった方では,タバコとの関係が非常に強いことが分かっています。若い人ほどタバコは危険です。年代を問わず、禁煙しましょう。
こんな食事と飲酒は、控えた方がよいと勧めます。
3)薬による治療
最も大切なのは、薬をキチンと継続して内服することです。どんなに良い薬でも、いい加減に飲んでいればその効果は期待するほど得られません。真面目に飲み続けましょう。
心筋梗塞
狭心症から更に進行したより重症な病気です。狭心症と違って、この病気には死亡のリスクがあります。
急性心筋梗塞の発症
(精神的な過労が誘因、明け方から午前中が多い)
自分の症状と心筋梗塞の症状との違いが気になるでしょう。敢えて申し上げれば,ここをお読みである今現在のあなたが急性心筋梗塞である可能性は非常に少ないでしょう。
・無痛性の心筋梗塞:
無痛性の急性心筋梗塞とは、心筋梗塞が起こった時に胸痛の症状が全く無かったか,あったとしても非常に軽くて深刻に自覚しない時です。しかし、こんな時でも,本人は全身の倦怠感や動いた時の息切れなどは感じていることが多く,風邪でもひいたと思っているようです。
このような胸痛の無い心筋梗塞(無痛性心筋梗塞)は高齢者や糖尿病の患者さんに多いようです。
・急性心筋梗塞の危険な合併症
急性心筋梗塞はそれが起こってから2,3時間以内が最も危険であり,ついで24時間以内,さらに一週間以内が危険な期間です。この間に心筋梗塞に伴った様々な危険な問題が発生する可能性が高いのです。そんな問題とは、
・非常に危険な不整脈、
・心不全、血圧低下、ショック(心臓のポンプ不全で起こる),
・心タンポナーデ(心臓周囲に水がたまって心臓が動けなくなる),
・心破裂(薄くなった心臓の筋肉が破れて穴があく),
・心臓弁破壊(弁がうまく閉鎖出来ない),
・梗塞後狭心症(狭心症の発作が頻繁に起こる),
・再梗塞(新たな別の冠動脈が再び詰まる),
・心室瘤内血栓(心臓のダメな場所に血液の固まりができる),
・脳梗塞(それによって脳の血管が詰まる)
多くは突然に起こります。直ちに死に直結する重大な問題が多くあります。
急性心筋梗塞とは,心臓のさまざまな病気が短時間の間に次々に起こって,直ちに適切に治療しなければ即死に結びつくので、非常に治療が難しい病気なのです。
・急性心筋梗塞の診断と入院
病院を訪れ,急性心筋梗塞と診断確定すれば、CCU施設がある病院へ即入院となります。
★入院治療が大原則
入院せずに家に帰り,自宅や外出先で危険な合併症が発生すれば二度と生き返らないかも知れないのです。非常に危険な病気の治療は入院するのが大原則です。
ただし,この病気に対応できるのは,cardiac care unit (CCU)といわれる特別な設備が完備している病院だけです。
急性心筋梗塞になった時はこの設備がある病院に何時間以内で飛び込めるかがその後の病気の経過をおおきく左右します。何処にその病院があるのかをあらかじめ調べておくとよいと思います。
・急性心筋梗塞の治療:
最近、この病気の治療法は大きく進歩しました。病院で治療した患者さんの死亡率は10%以下にまで激減しました。一方,病院で治療しないと,この病気の死亡率は今でも依然として高く,病気が起こった当日だけで30%程度と推定されています。
1)再潅流療法:
病気が起こって6時間以内であれば,詰まった冠動脈を広げて血液の流れを再開してやれば心臓の筋肉は生き返ると考えられています。
心臓カテーテル法を用いて詰まった冠動脈に詰まりを溶かしてしまう薬を流し込んだり(PTCR),風船付きのカテーテルで詰まった場所を拡げたりします(風船療法:PTCA)。
2)冠動脈血管形成術:
カテーテルで詰まった場所を広げ、その広がった血管の場所にステントといわれるコイル状のバネの様なものを設置して血管を広げた状態に保持します。このステントにより、広がった狭い血管が再び自然に狭くなるのを防いでくれます。
しかし長期間では再び内腔が狭くなることもありますので(ステント後の再狭窄)、予防のためしばらく薬を飲み続けることが勧められます。
3)不整脈対策:
この病気では生命に関わるような悪質な不整脈がしばしば現れます。かつてはこの異常によって多くの患者さんが亡くなりました。
現在では入院患者さんはよく管理されて,不整脈が起こっても十分な対応がされ,事なきを得ることが出来ます。
附録:心臓の冠動脈
★心臓の冠動脈:
(冠動脈は心臓の命綱、心臓の活動源ー酸素と栄養を運ぶ血管)
★心臓と冠動脈
心臓とは入口と出口のついた,肉厚の筋肉の袋であると思って下さい。この袋が大きく広がったり,小さく縮んだりを繰り返しながら入口から血液を吸い込んで,出口から血液を送り出します。一日に十万回の動きを80年間も繰り返すのです。
★冠動脈の働き
心臓は筋肉が伸びたり縮んだりを一日に十万回も繰り返しますので,大量の酸素と栄養を血液から受け取らなければなりません。この心臓を養う血液が通る血管のことを冠動脈(または冠状動脈)といいます。
安静時には心臓の送り出す全血液量の5%がこの冠動脈に流れ込みますが,運動時にはこの比率はもっと高まります。
冠動脈は3本の太い血管で心臓の表面に張り付くように伸びて広がり,細かく枝分かれを繰り返しながら心臓全体を被っています。この血管によって心臓が養われているのですから,心臓にとってこれは,まさに命綱とも言える大変重要な血管なのです。海に潜っている潜水夫にとっての海上の船からの酸素パイプと同じ様なものと考えて下さい。
★冠動脈の動脈硬化
パイプの血管の内側は生まれた時はつるつるしたきれいな表面をしています。しかし年齢を重ね幾つかの原因が重なると,一種の血管の劣化現象とも言える血管の粥状動脈硬化が進行し、内側の表面は凸凹した汚いものになっていきます。
これは古い水道管がゴミで詰まってしまい,取り替えたことがある方なら分かるでしょう。パイプの中にはサビやゴミがぎっしり詰まっていて,とても水がさらさら流れてゆくようには見えません。
★冠動脈の側副血行路
(劣化した血管にできるバイパス道路。できない血管もある)
血管が劣化し始め、徐々に詰まりかけたときには,完全に詰まってしまわないうちに,狭くなった場所に新しい細い血管が生まれ始め,この新しい血管によって血液はバイパスされることがあります(側副血行路)。
このバイパスの流れによって、万一劣化した太い血管が完全に詰まってしまっても,この側副血行路の血液の流れによって詰まった場所から先の細胞も死ぬことはなく細々と生きてゆけます。
しかし,この側副血行路の細い血管が出来上がるまでには時間が必要です。短時間で太い血管が完全に詰まってしまっては,側副血行路の血管を作る余裕がありません。また側副血行路の血管は細くて,元の太い血管を流れていた血液量の一部分だけしか補うことは出来ません。
さらに側副血行路の血管が出来る血管と出来ない血管があったり,出来る人と出来ない人の個人差などもあります。なぜこの血管の部位による差や個人差があるのかはっきりしません。
しかし,冠動脈にはこの側副血行路の血管ができ易いので助かります。この側副血行路を良く発達させる方法があれば,この病気の治療として大いに期待できるでしょう。実際この治療法が新しい方法として注目されています。